世界中で採掘されているダイヤモンドですが、ダイヤモンドを取引している場所は世界中で16ヶ所あります。ダイヤモンドの売買は少々特殊で採掘会社と直接取引するのではなく、必ず間に取引所を通じて売買が行われます。この取引所で取引されるダイヤモンドの量は取引所によって異なり、取引所にて買われた宝石は美しく加工され、宝石店に並び私たちの手元へやって来るのです。
今回はダイヤモンドの取引所にまつわる少し特殊なお話をしたいと思います。
ダイヤモンド取引所の場所は?
ダイヤモンドの取引所は世界中に16ヶ所あります。
アメリカのニューヨークに2ヶ所、イスラエルの テルアビブに2ヶ所、イギリスのロンドンに2ヶ所、そしてフランスのパリ、イタリアのミラノとベニス、オランダのアムステルダム、南アフリカの ヨハネスブルグ、ドイツの イダー・オベルスタインにそれぞれ1ヵ所ずつあります。
その中でもベルギーのアントワープには4ヶ所と世界で1番多くの取引所が集中しています。そして、原石専門の取引所は世界中に1ヶ所このアントワープにしかありません。世界でも唯一の原石専門の取引所には、世界中のダイヤモンド原石の80%もの量が集められています。アントワープは16世紀頃から貿易港として発展し、20世紀には世界でも有数のダイヤモンドの取引拠点として有名となりました。16ヶ所あるうちの4ヶ所がベルギーにあるので、ベルギーにとってはダイヤモンドは重要な輸出産業となっています。また、アントワープの取引所の流通量は多く、世界の流通量の多くを占めています。
取引所ってどんな風?
ダイヤモンド取引所に入る際には、まずパスポートを渡します。これはダイヤモンドの盗難を防ぐためです。例え盗まれた場合、パスポートがなければ国外への脱出は難しくなります。そう簡単に逃げられないように足止めをするためですね。ダイヤモンドの取引所は「ブース」とも呼ばれています。取引所内ではそれぞれのメンバーがそれぞれ個別に取引をしています。
取引の流れとしてはまず、ダイヤモンドの原石の売り手は仲介業者に売値を伝えて、ダイヤモンドを渡します。仲介業者はダイヤモンドの買取業者へと赴き、ダイヤモンドを見せて売値を伝えます。買取業者は買い取る値段を出します。その際には、ダイヤモンドを封筒に入れて封をして、封筒に買値を記載し仲介業者へ渡します。封をするのは、仲介業者は別の買取業者へ行くのを防止するためです。仲介業者は買値を売主につたえるために、売主の元へと帰ります。売主が買値に満足したなら、また買取業者へ戻り、契約を成立させます。交渉時は、直射日光を避けた自然光の下でルーペを片手にダイヤモンドを一つ一つ品定めをし、交渉を行います。ダイヤモンドを品評するには自然光が不可欠なので、取引は午前10時から午後4時までの間に行われています。
メンバーでないと出入りも不可能
ダイヤモンドの取引所は、誰でも出入りできるわけではありません。例えば、ある日ダイヤモンドを扱う仕事をしようと思い立ち、ダイヤモンドの売買に関わりたくても、取引所のメンバーにならなければ入場の許可もおりません。ダイヤモンドは大変価値のある宝石のため、選ばれたメンバーだけが取引に関わることができるのです。
また、そのメンバーに加入するのにも大変な審査を経ます。取引所に在籍するメンバーから推薦を受け、父から子へと代々受け継がれたり、今までの積み上げて来た業界での業績、経験や信用が必要となります。
こうして加入を許されたメンバーは、取引所への入場やダイヤモンドの取引に関わることが出来ます。取引所の出入りが許されたメンバーは、各取引所に2000~2500人ほどのメンバーがいます。複数の取引所でメンバーを兼任して居る人が多く、世界で約8000人ほど取引所メンバー在籍していると言われています。世界のダイヤモンドの流通量を考えると、少し少ないように感じますが、それだけダイヤモンドの取引は難しいのです。
取引所のメンバーはユダヤ人
取引所メンバーの多数がユダヤ人のダイヤモンド商です。ダイヤモンド産業と金融業は、昔から伝えられたユダヤ人の重要な産業です。16世紀後半からユダヤ人はナチスに追われた人も含め、アントワープへ集まって来ました。ダイヤモンドの研磨工場で活路を見出すもの、ダイヤモンド取引業者として活躍するものも多く、信頼が大事なダイヤモンドの取引は、父から子へとその信頼が受け継がれ、ダイヤモンドの取引がアントワープで盛んになる礎を築いて来ました。
世界のダイヤモンド取引の支配者と言われるデ・ビアス社の事業を、創業当時に金銭面で支援したのも、ユダヤ系財閥のロスチャイルド家です。その後もデビアス社の主要株主は、ユダヤ系の財閥が中心にありました。こうした理由から現在でも世界のダイヤモンド産業で活躍する多くの人々が、ユダヤ人なのです。割合でいうと10年ほど前までは、ユダヤ系の人達が50%を占めていました。そうした理由から取引所では取引が成立すると、売り手と買い手は握手をしながら「マザール」と言います。ヘブライ語で「チャンス、神のご加護あれ」という意味なのだそうです。
ダイヤモンド取引所が増えた?
2015年9月にシンガポールでダイヤモンドの電子取引所が開設され、投資家に市場が開かれました。今までは、伝統的で閉鎖的で業者同士の限られた内輪の市場でした。
そのため、ダイヤモンド取引は業界に精通していなければ参加すらできない、非常に閉ざされた世界であり、今回のシンガポールの取引所は相場をリアルタイムで開示し、価格の透明性が一気に高まるとされています。
一方、今まではダイヤモンドを一つ一つ品評し、プロによる価格交渉は傷の形状にまで踏み込んで、値付けされていました。ダイヤモンドは傷の数だけでグレードが決まるのではなく、また同じグレードのダイヤモンドであっても価格が同じという訳ではありません。このシンガポールの電子取引では、研磨したダイヤモンドをサイズや色などで分類して、高速で取引を処理できるようにシステム化されています。規格で分類されたダイヤモンドを瞬時に取引する仕組みになっているのです。
これまでの取引所のようにゆっくりと品評する時間はありません。
現在の時点では、ダイヤモンド業界が望む形での取引ではなく、懸念されている部分も多くありますが、現在のダイヤモンド市場はデ・ビアスがダイヤモンドの値下げを決断するほど、厳しい状況下にあります。今の下げ相場でスピーディなダイヤモンドの売買がなされ、ダイヤモンドの流動性が高まれば、ダイヤモンドの値下がりが後押しされるのではないかとの声もあるほどです。現物を見ないネット上での取引が相場を形成する仕組みは、確かに今後のダイヤモンドの値下げを大きく促すことになるかもしれません。SDiXのアレイン・ヴァンデンボーレ会長兼最高財務責任者(CFO)は記者会見で「ダイヤモンド業界は今、大きな危機に陥っている」と話しています。その上で「長い目で見れば有望な市場」と語っており、投資商品としての側面も備え、ダイヤモンド取引の透明度は高まるので、これからの新しいダイヤモンド取引となるのではという期待もあるのです。
いかがでしたでしょうか?
長年愛され続けているダイヤモンドですが、時代とともに取引の仕方にも変化が見られつつあります。美しく輝く魅惑的な宝石で人々を魅了するのに変わりはありませんが、10年後、20年後にはダイヤモンド市場は大きく変化しているかもしれません。ダイヤモンドに携わる業界でないとなかなか耳にしない取引所のあれこれでした。