世界一美しい女性と呼ばれたハリウッドの名女優、エリザべス・テイラー。生涯多くの恋をし、7回の結婚と離婚を繰り返しました。そして彼女がもうひとつ、愛したものがあります。それは美しいジュエリーたちでした。夫のリチャード・バートンから贈られた豪華な宝飾品達。そのひとつひとつはどれを取っても世界中にまたとない希少価値のある宝石や、素晴らしいデザインの施された作品ばかりでした。
2011年3月に彼女が他界した後、同年12月13日と14日にクリスティーズのニューヨーク支店で「エリザベス・テイラー・コレクション」と銘打ったオークションが開催されました。2日間での落札総額は、これまでの記録を塗りかえる額となりました。こちらでは、エリザベス・テイラーが所有し、オークションで高額で落札されたという豪華なダイヤモンドジュエリーたちをご紹介します。
エリザベス・テイラー・ダイヤモンドリング
(Elizabeth Taylor Diamond Ring)
1968年に、夫である俳優のリチャード・バートンから贈られたというダイヤモンドの指輪です。アッシャーカットが施された33.19カラットという大きさのダイヤモンドは、GIAの評価により限りなくインターナリ―フローレスに近く、カラー(色)はDという素晴らしい鑑定結果が出されました。
このダイヤモンドは、元々はドイツの重工業企業クルップが所有しており、「クルップ」と呼ばれていました。1968年に同社により競売にかけられたのをリチャード・バートンが購入しました。後日、ふたりがロンドンのテムズ河をクルーズしていた際にリチャードがエリザベスへサプライズとしてプレゼントしたという、とてもロマンティックなストーリーのある指輪なのです。
指輪が大変気に入ったエリザベス・テイラーは、ほとんど毎日の様に指に着けていたので、いつの間にかこのダイヤモンドは彼女を象徴するものとなっていました。指輪は彼女の他界後、その栄光を讃えて「エリザベス・テイラー・ダイヤモンド」と改名されました。
当日のオークションでは、およそ882万ドル(約9億8千万円)で落札されました。
ラ・ペレグリーナ(La Peregrina)
ダイヤモンドとルビー、天然真珠で出来た豪華なネックレスです。センターピースのモチーフにダイヤモンドとルビーを使い、さらに大きなドロップパールを使用しています。歴史のあるこのパールは世界中で最大のもののひとつに数えられ、さらに完璧なペアシェイプをしているので大変希少価値が高いと言われています。
このパールは16世紀の半ばにパナマ湾で発見された後、スペインの王室に捧げられました。ネックレスやブローチとして身に着けられ、スペイン王室で250年にも渡る長い間、世代を超えて引き継がれました。後にナポレオン3世の手に渡り、イギリスの貴族ジェームス・ハミルトンへと売却されます。ハミルトン一族はこの後もパールを大切に所有していましたが、1969年にサザビーズで競売にかけます。この時にパールを落札したのが、リチャード・バートンでした。
クラウン・ジュエルとしてスペインの王妃たちに愛されたパールは、バレンタインデーの贈り物として、夫からエリザベス・テイラーにプレゼントされました。ところがある日、彼女は大切なパールをうっかり失くしてしまいます。ラスベガスの名門ホテル「シーザーズパレス」のスイートルームに滞在中の出来事でした…。
部屋でくつろいでいたエリザベスがネックレスにふと触れると、パールがありません。驚いた彼女はリチャードが見ていないのを確認し、大慌てで別室へ。枕に顔をうずめて悲鳴を上げると、ほとんどパニック状態でスリッパや靴下を脱いでそこらじゅう探し回ったそうです。リチャードが大変気に入っていたパールが紛失したとなったら一大事…!
生きた心地がしない程焦った彼女がふと目にしたのが、傍にいた愛犬の子犬でした。あげたはずの無い骨を噛んでいる様子の子犬…。ゆっくりと口を開けさせて見てみると、何とそこにはパールが!ラッキーな事に、パールに傷はついてなく、無事彼女の元に戻ることができたのです。
その後、エリザベスはこのパールの再デザインをカルティエに依頼します。こうして出来上がったのが、ダイヤモンドとルビー、パールが多数セッティングされた優雅なネックレスでした。
オークションでは、1184万2500ドル(約9億2400万円)という最高高値で落札されました。
ザ・タージ・マハール(The Taj Mahal)
インドで採掘された歴史あるダイヤモンドと翡翠のペンダント・ネックレスです。ダイヤモンドはハートシェイプ。翡翠で作られたペンダントの台座にダイヤモンドとルビーが並んであしらわれ、センターに大きなハートのダイヤモンドが配されています。彫刻が刻まれたハート型のテーブルカットダイヤモンドは、1627年頃に製作されたものです。
ゴールドで出来たチェーン部分は1972年頃にカルティエにより製作されました。カボション・カットされたルビーとオールドマイン・カットされたダイヤモンドが配されています。
タージマハールと呼ばれるダイヤモンドの歴史は古く、その昔インドのムガル帝国のシャー・ジャハーン皇帝がムムターズ・マハール王妃に贈ったものと言われています。王妃が死去した際にジャハーン皇帝が建設した総大理石の墓廟がタージ・マハールであることから、ダイヤモンドも同名で呼ばれることになったのです。
1972年、リチャード・バートンは、エリザベス・テイラーの40歳の誕生日プレゼントとしてこのペンダントを贈りました。この際、「(建物の)タージ・マハルを買ってあげたかったけど、運送料が高すぎる!」という有名なコメントを残しています。
オークションでは、想定価格の20倍以上である881万8500ドル(約6億8900万円)で落札されました。
ブルガリ・サファイア・ソートワール(The Bvlgari Sapphire Sautoir)
ソートワールとは、宝石があしらわれた長いネックレスにペンダントをつけたものです。ネックレスはそのままの長さで着けたり、2重にしたりなど違った印象の装いを楽しめます。
ペンダントのセンターピースは8角形。その中央には、52.72カラットという大きさのサファイアをセッティング。サファイアは中央を高くしたシュガーローフ・カボションカットが施されており、その周りにはパヴェダイヤモンが存分にあしらわれています。
ネックレスはアールデコ様式そのものを表現した幾何学的なデザイン。素材はプラチナで、チェーン全体にもサファイアとダイヤモンドのパヴェが配されています。ペンダントは取り外し可能で、ブローチとしても使用できます。
このペンダントは、タージマハールと同様に1972年、エリザベス・テイラーの40歳の誕生日プレゼントとしてリチャード・バートンから贈られました。映画「別離 (Ash Wednesday)」の中で着用されています。
オークションでは590万6500ドル(約4億6千万円)で落札されました。
2015年の9月から11月にかけて、東京国立博物館で開催された回顧展「アートオブ・ブルガリ」で展示。現在はブルガリに戻り、永遠のコレクションとして保管されています。
まとめ
映画「クレオパトラ」の撮影で共演したことから恋に落ち、2度の結婚と離婚を繰り返したふたり。夫は妻に世界にたったひとつしかないジュエリーを、最高にロマンティックな場面でプレゼントしてきました。
撮影のために滞在していたローマで、エリザベス・テイラーはお気に入りの宝石商であったブルガリ本店を度々訪れていたそうです。競売ではブルガリが制作した有名なエメラルドとダイヤモンドのジュエリーセットも出品され、同社が買い戻すという形に収まりました。
世界一美しいと言われた女優に似合うのは、やはり世界一美しいジュエリーだったのですね。