世界中の人々から愛される宝石の王様、ダイヤモンド。ダイヤモンドと言えば、地球上でいちばん硬い鉱物ですが、その特性を生かして様々な場所で活躍しています。宝石としてではなくても、誰もが知らず知らずのうちにダイヤモンドを使っているのではないでしょうか。現代の人々の暮らしに欠かせなくなったダイヤモンドは、意外なところに使われています。「工業用ダイヤモンド」に着目してみました。
宝石にはならないダイヤモンド
「磨けば光る」と言われるダイヤモンドですが、研磨するだけの大きさがないものは、光り輝くことはありません。宝石の価値がない「くずダイヤ」と呼ばれるものも存在します。小さなダイヤモンドでも、0.1カラット以下の「メレダイヤ」として使えるものは宝石用として使用しますが、小さすぎるもの、色が黄色すぎるもの、宝石としての用途をなさないものは工業用として分類されます。ダイヤモンドとしての品質は劣っていても、工業用に回すには惜しいダイヤモンドは「準宝石」として市場に出回ることもあります。
宝石としての価値がないとみなされたダイヤモンドは、極端に価値が落ちます。しかしながら、ダイヤモンドは優れた特性が多くあることから「工業用ダイヤモンド」としていろいろな場面で利用されています。発掘されたダイヤモンドの8割もが工業用として使われ、宝石用になるダイヤモンドはわずか2割しかありません。
なぜダイヤモンドが工業用として使われるの?
工業用ダイヤモンドは、宝石としての用途よりはるかに多く使われています。「ダイヤモンドなくして近代工業はなりたたない」とまで言われるほどです。ダイヤモンドは、鉱物の中で一番固く耐摩耗性があるので、ほかの物とぶつかっても傷が付きにくく壊れにくいという特徴を持っています。また電気絶縁体でもあり、熱伝導性にも優れた一面を持っているので、工業用に多く使われています。主な活用法は研磨、切断、掘削などです。
工業用ダイヤモンドのはじまり
古くは古代エジプト時代に始まり、宝飾品として最高の地位を維持してきたダイヤモンドですが、工業用としてはいつごろから利用されるようになったのでしょうか。
20世紀になり、人工のダイヤモンドを作ることに成功しました。組織から本物のダイヤモンドを作れるようになったのです。今では工業用ダイヤモンドのシェアの半数近くを、人工ダイヤモンドが占めています。
ダイヤモンドが本来の意味で工業用材料として使われるようになったきっかけは、1955年、アメリカのゼネラル・エレクトリック社(現在のダイヤモンド・イノベーションズ社)による静水圧法によるダイヤモンド合成技術の成功です。以来、ダイヤモンドカッター、グラインディングホイールを主とした利用が着実に成長していきました。さらにエレクトロニクス産業の成長や加工工程の合理化、難加工性の新素材の登場を背景として、ダイヤモンド工具は右肩上がりに成長していきました。
人工ダイヤモンドができるまで
1797年にダイヤモンドは炭素だけで構成されているということが発見されると、科学者たちは安価な炭素材料を使ってのダイヤモンドづくりを試みました。1878年にジェームス・バランタイン・ハネイが初めて合成に成功し、1983年にアンリ・モアッサンも成功しています。その後も何人もの科学者が試みて、さらなる改良をしたのが前述のゼネラル・エレクトリック社です。
ダイヤモンドの作り方は、一言でいえば炭素に高温と高圧をかけるというものです。ピストンとシリンダーで挟み込まれた反応室と呼ばれる小さな直方体の空間に、黒鉛と触媒を入れ、温度と圧力をかけていきます。この時、かける温度と圧力によって出来上がるダイヤモンドの質が変わってきます。工業用に使うダイヤモンドの場合も、合成する際に使った触媒によって靭性や破砕性を変えています。
人工ダイヤモンドを作る方法にはいつくかあり、初期は「高温高圧法」が用いられ、低予算でできることから現在も広く使用されています。次に、「化学気相蒸着法」による合成がされました。そのほかには、爆轟による生成、超音波処理法などがあります。
人工ダイヤモンドが本物として売られることは?
現代の技術をもってすれば、人工ダイヤモンドを宝石のダイヤモンドとして販売することも可能です。工業用に使う人工ダイヤモンドと宝石用ダイヤモンドでは大きさが違い、宝石用の方が断然大きいです。大きな人工ダイヤモンドを作るのには費用がかかり、同質の天然ダイヤモンドを使用するよりもかえって高くついてしまうことや、製造にかなりの設備が必要になってくることから、宝石用には作られていません。天然だと思って買ったダイヤモンドが人工ダイヤモンドだった、と騙されることはないはずです。
こんなところでダイヤモンドは使われています
レコード針
繊細な細さが必要なレコード針に、ダイヤモンドはなくてはならない存在です。プラスチック製のレコードの細い溝を何千回もなぞり続けるのに、高い耐摩耗性のあるダイヤモンドが最適です。一般的にダイヤモンドのレコード針は、500時間以上の耐久性があると言われています。
ダイヤモンドカッター
回転工具の刃先にダイヤモンドが混ぜられたもので、ダイヤモンドの粒が対象物を削り取っていきます。金属、石材、コンクリートなどを切断するのに使います。建築現場や工事現場でよく利用され、道路工事でアスファルトを切るのにもダイヤモンドカッターが使われています。
研磨機、研磨剤
ダイヤモンドカッターと同様、ダイヤモンドは引っかく力に強いということから、研削や研磨剤として使われています。ダイヤモンドパウダーなど、研磨材としては最高級の耐久度と研磨性を誇っています。ダイヤモンドを微粉末にした研磨剤は、ガラスの彫刻やほかの宝石の研磨、光学用レンズや金属、超硬合金の精密研磨に欠かせません。家庭生活に身近なところでは、スポンジや包丁砥ぎ器にも使われています。
人工衛星の窓
人工衛星の窓は、極度の高温に耐え計測できるほどの透明度が必要なのですが、その唯一の素材がダイヤモンドでした。1978年にアメリカが金星に向けて送り込んだ人工衛星「パイオニア」の外部観測用の窓に使われています。13.5カラットもある最上質のダイヤモンドの丸窓が採用されました。
ガラス切り
極細の先端に取り付けられ、高い耐摩耗性を要求されるという点でレコード針と通じるものがあります。
砥石
金属、ガラス、半導体などの加工に使用する研削砥石に人工ダイヤモンドが使われています。砥石本体を形成するために、天然ダイヤモンドを使います。
ダイヤモンドドリル
歯科医院で歯を削るのに使うドリルの先端にも、ダイヤモンドが使われています。歯のエナメル質は、ダイヤモンドの次に硬いそうです。
こんなシーンで使われているダイヤモンド
街の中で
ビル、飛行機、自動車、道路の補修
家の周りで
家の建材、太陽光発電システム、自転車
部屋の中で
パソコン、スマートフォン、メガネ、照明、スピーカー、エアコン、冷蔵庫、テレビなどの電化製品
電化製品はダイヤモンドがなくては作ることができません。宝石としてのダイヤモンドは持っていなくても、ダイヤモンドを使った製品はどこのお宅にもあるのではないでしょうか。わたしたちの暮らしを支えるダイヤモンド。宝石としてだけでなく、とても身近な存在だったですね。