ダイヤモンドのインクルージョンについて
地中深く、太古からの長い年月をかけて形成されるダイヤモンドには、必ずと言っていいほどインクルージョン(内包物)があります。まったくインクルージョンのない「フローレス」と呼ばれるダイヤモンドもあることにはありますが、専門家でもめったに目にすることができないほど高い希少価値があり、ほとんど市場には出回らないものです。その、非常に稀なフローレスでない限り、インクルージョンは付き物です。インクルージョンは、そのダイヤモンドの持つ個性であり、天然の証でもあり、決して余計なものではありません。インクルージョンはどうやってできるか、ジュエリーにおいてのインクルージョンとはどんなものか、などということについてご紹介していきます。
インクルージョンとは?
インクルージョンとは、完全にダイヤモンドの内部にある、または表面から内部に入り込んだ特徴のことです。インクルージョンの正体は、ほかの鉱物の結晶やフェザー(割れ)、ダイヤモンドが地中で形成される際の結晶構造内のゆがみの跡などです。
ダイヤモンドができるまで
インクルージョンが何かを知るために、ダイヤモンドがどのように形成されるかについて知っておきましょう。ダイヤモンドは、数百Kmもの地球の深部で、およそ6万気圧、2000度もの高圧高温下で、さまざまな条件が重なり合って形成されます。ごくまれに、地球に衝突した隕石がダイヤモンドを作り出すこともあります。ダイヤモンドは数億年前の火山活動によって、噴火するマグマの中に含まれ地表に噴出しました。冷えたマグマは「キンバーライト」という原石となり、ダイヤモンドはその中に含まれています。キンバーライトの大部分は白亜紀(7000万年~1億2000万年前)にできたものです。マグマの噴出により、キンバーライトは円筒状となって地中に残りました。これが「ダイヤモンドパイプ」と呼ばれるダイヤモンドが採掘できるところです。また別の場所では、長い年月をかけて雨風にさらされて浸食されたキンバーライトが、砂利となって川や海に流れ出し、川岸や海岸にもダイヤモンドを採掘できる層を作り出しました。それをダイヤモンド鉱床といいます。
インクルージョンの様々なタイプ
上記のような、様々な奇跡が重なり合って形成されたダイヤモンドですが、インクルージョンの存在も、様々な偶然の積み重ねでしょう。インクルージョンの種類にも様々なタイプがあり、タイプにより違う呼び名があります。それぞれのインクルージョンのタイプのご説明をします。
<フェザー>
フェザーとはダイヤモンドの内部に生じる2種類の割れ(クリベージ、フラクチャー)を表す言葉です。クリベージとは、結晶方向に平行な割れのことを指します。フラクチャーとは、平行方向以外の割れのことを言います。
<インクルーデットクリスタル>
ダイヤモンド内部に含まれた、ダイヤモンド、またはダイヤモンド以外の鉱物の結晶ことを言います。もっともよく見かけるのは、透明か、「カーボン」と呼ばれる黒色の小さな結晶です。ごく稀に、色付きのガーネットなどがインクルージョンとして確認できる場合があります。内包結晶は大きくない限り、ダイヤモンドの輝きに影響することはなく、耐久性を損なうこともありません。
<ピンポイント>
非常に小さな白色の結晶で、10倍のルーペで拡大して小さな白い点として見えるインクルージョンです。ピンポイントは一個単体で存在するものと、まとまって確認できる場合があります。
<クラウド>
ダイヤモンド内部に存在する、乳白色の濁りのことを指します。クラウドは非常に小さなピンポイントの集合体で、雲のように見えます。
<ノット>
表面まで達した内包結晶のことを言います。
<ブルーズ>
ブルーズは、強い衝撃によりダイヤモンド表面にできるクリベージを伴う欠けやくぼみのことで、内部に入り込むのでインクルージョンに分類されます。大きさは様々で、小さなフェザーに囲まれることもあります。
<インターナルグレイニング>
ダイヤモンド内部の不規則な結晶成長の跡のことを指します。無色のグレイングはクラリティに影響しませんが、白色や色付き、または反射するグレイングはグレードに影響します。
<ベアデッドガードル>
ブルーディング(機械でダイヤモンドを回転させながらすり合わせて円形にすること)した際にできる、ガードルから内部に伸びる小さなフェザーのことを言います。ベアディングの顕著なダイヤモンドは、白っぽく見えます。
<キャビティ>
ダイヤモンドにできる大きな穴や、くぼみのことを言います。キャビティは、よくすり合わせることでなくすことができますが、それと引き換えに石が小さくなってしまいます。
<チップ>
ガードルエッジにある、小さな欠けや浅い穴のことを指します。チップは、打撃に弱いガードルに沿ってできることが多いです。
<インデンテッド ナチュラル>
カット済みダイヤモンドの研磨面から、内部に入り込んだ原石(結晶)の表面のことを言います。上記の「キャビティ」に似ていることが多く、グレーディング上は同じ影響だととらえます。
<ニードル>
細長い棒状の内部結晶のことを指します。
<トゥイニングウイスプ>
育成途中の結晶のゆがみにより生じた曇りのことを言います。
<グレインセンター>
結晶構造のゆがみが集中した部分のことを言います。
<レーザードリルホール>
レーザー光線によりダイヤモンド内部まで穴をあけ、目立つインクルージョンを処理する作業で、クラリティの改善を目的に行われます。通常、レーザードリルホールは見た目の印象を優先させるため、パビリオン側(石の下側)からレーザーで穴をあけます。
ダイヤモンドだけじゃない、インクルージョン
インクルージョンがある宝石は、ダイヤモンドだけではありません。同じような経過をたどって出来るのが天然石ですから、多くの宝石にインクルージョンがあります。中でもインクルージョンの多い代表選手は、エメラルドです。ほとんどのものにインクルージョンがあり、ないものに出会うことはとても稀なことです。 インクルージョンは、宝石の価値を下げるばかりではなく、インクルージョンを好んで選ぶ方もいます。
インクルージョンを見るときのポイント
ダイヤモンドを顕微鏡で見ると、インクルージョンの種類や数を確認することができます。顕微鏡でインクルージョンを見る際の、いつくかのポイントがあります。明視野照明、暗視野照明、偏光照明、光ファイバー照明など、違った種類のいくつかの照明を用意します。これによって、制御された光の経路によって、ダイヤモンドがどのように反応するかを知ることができ、インクルージョンの貴重な情報が得られます。様々な照明で観察することにより、一つの照明では見逃してしまいがちなインクルージョンの情報を見つけることができます。まずは最も広い面、テーブル面からダイヤモンドを見てみましょう。その後、パビリオン部から覗いてみましょう。石を動かしたり、傾けたりしながら、いろいろな方向から観察しましょう。
4Cにおけるインクルージョンの評価は?
ダイヤモンドの評価を決める4C(カラー、カット、クラリティ、カラット)のうち、インクルージョンが影響するのは、クラリティ(透明度)です。インクルージョンの数や大きさ、位置などでクラリティのグレードが決まります。クラリティのグレードが高いほど透明度が高く、低いほどダイヤモンドが曇って見えます。クラリティは11段階に等級付けられます。クラリティのグレードが「VS2」以上のものであれば、インクルージョンが肉眼で見えることはありません。インクルージョンが気になるという場合は、鑑定済みでクラリティのグレードが高いダイヤモンドを選びましょう。