ダイヤモンド取引所について
ダイヤモンドはカットされた後、世界の16か所にある「ダイヤモンド取引所」で取引されます。日本にいるとあまりなじみがないのですが、ダイヤモンドジュエリーがお好きな方なら、一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか?「ダイヤモンド取引所はどんなところか?」「どんなふうにダイヤが取引されるのか?」などをご紹介していきます
ダイヤモンド取引所はどこにあるの?
世界中に供給されるダイヤモンドのほとんどは、次の16か所のダイヤモンド取引所で売買されています。
- ベルギー、アントアープに4か所
- アメリカ、ニューヨークに2か所
- イスラエル、テルアビブに2か所
- イギリスロンドンに2か所
- フランス、パリ
- イタリア、ベニスとミラノ
- オランダ、アムステルダム
- 南アフリカ共和国、ヨハネスブルグ
- ドイツ、イダー・オベルスタイン
この中でとくに有名なのが、アントワープとニューヨークのダイヤモンド取引所です。
ダイヤモンド取引所はどういう人が入れるの?
取引所では毎日たくさんのダイヤモンド取引がされていますが、誰もが気軽に入れる場所ではありません。取引所でのダイヤモンドの売買は、厳選されたメンバーで執り行われています。新たにメンバーになるには、すでに会員になっているメンバーからの推薦が必要になります。そのうえで、これまで積み上げてきた信用や、業界への貢献度が審査の基準となっています。ダイヤモンド取引所に入るときは、盗難防止のため、パスポートを預ける決まりがあります。パスポートを預けることで、無断で海外に持ち出すことを防ぎます。各取引所には2000人から5000人のメンバーがいます。複数の取引所のメンバーになっている人も多くいるので、世界で8000人ほどのメンバーが活躍していると言われています。そう多くないように感じますが、それだけダイヤモンド取引はそれだけ難しいことなのでしょう。
ダイヤモンド取引所のメンバーの多数はユダヤ人
ダイヤモンド産業は、金融業と並ぶユダヤ人の産業で、ダイヤモンド取引所の多数派はユダヤ人のダイヤモンド商です。世界のダイヤモンドの流通を支配する「デビアス社」を、創業当時から金融面で支えたのが、ユダヤ系財閥のロスチャイルド家です。その後のデビアス社の主要株主もユダヤ系財閥が中心でした。そういった経緯からも、現在世界のダイヤモンド産業で活躍する多くの人がユダヤ人なのです。
ダイヤモンド取引所って、どんなところ?
取引所の中の設備はとても充実しています。銀行や郵便局、レストラン、歯科などが揃っている取引所もあります。それには理由があり、取引所に一旦入るとむやみに外出することが面倒なためです。取引所はセキュリティがとても厳しく、駐車場では車の隅々までチェックされます。入場の際はIDの照合、顔の確認、指紋認証までされるからです。
ダイヤモンドの取引は、自然光の下で10倍のルーペを片手に行われます。そのため、すべての取引所は直射日光を避け、北側に大きく開いた窓を備えています。自然光が欠かせないので、取引時間は午前10時から午後4時までとなっています。取引所は「ブース」と呼ばれ、取引所内ではメンバーが個別に取引をします。
どういうふうに取引をするの?
買い手が今求めているダイヤモンドの階級についての貼り紙をします。それを見た売り手が訪ねてきて、交渉を開始します。取り引きは「ロット」と呼ばれる数十個から数百個単位で行われます。買い手が目で確認をして、不要なものを除いていきます。この時点で、鑑定書はついていませんので、このときの品質評価はとても重要になってきます。売り手と買い手が納得がいく価格で折り合いが付けば、交渉成立です。取引が成立すると、売り手と買い手は「マザール」と言いながら握手を交わします。マザールとは「神のご加護あれ」という意味のヘブライ語(ユダヤ人が母語にしていた言葉)で、この挨拶を交わすことがダイヤモンド界の常識となっています。ダイヤモンドの取引には契約書のやり取りがないことが特徴です。口頭で取引が成立する習慣は、結束の固いユダヤ人社会の伝統でもあります。約束を破ることがあれば、もう二度とダイヤモンド業界では仕事ができなくなってしまうのです。
アントワープとユダヤ人
アントワープは16世紀から貿易港として発展してきましたが、同じころ、アントワープにユダヤ人たちが集まってきました。ナチスの迫害を受け、ダイヤモンドと引き換えに強制収容を逃れてきた人たちもいました。ナチスから追われてきたユダヤ人たちは、ダイヤモンド研磨工場で活路を見出したり、ダイヤモンド取引業者として活躍する人もいました。
アントワープには、正統派ユダヤ人の大きなコミュニティがあります。ダイヤモンドの研磨器具を発明したローデウィク・ファン・ベンケルが、ユダヤ系ベルギー人でした。この発明によりユダヤ人の研磨職人が増えたことで、アントワープの地がダイヤモンド研磨の中心となり、ダイヤモンドセンターとしての役割を果たしてきました。一昔前まで50%を占めていたアントワープのダイヤモンド業界のユダヤ人でしたが、現在は売り上げの60%をインド系の人たちが占めています。
ダイヤモンドの街、アントワープ
16世紀の金融産業は、宝飾品と密接な関係があったことから、アントワープは金融産業も発達していきました。アントワープは、ダイヤモンド取引量の最多を誇り、世界で16か所あるダイヤモンド取引所のうちの4か所があります。アントワープのこの4つの取引所だけで、世に流通するダイヤモンドの半数以上をも占めているのです。アントワープは、ダイヤモンド取引を行う上で必要な環境が整っている点でも、ほかの国の取引所の比になりません。ダイヤモンド鑑定機関、ダイヤモンド取引専門銀行、ダイヤモンド輸送会社、ダイヤモンド関連会社、有名宝飾店、ダイヤモンド研磨機材販売店などが揃っていることや、町ぐるみの警備体制が、ダイヤモンド取引の街である信頼性を高めています。アントワープ中央駅に隣接する約1平方キロメートルの地区には、ダイヤモンド関連会社が1800社もあります。
それぞれ特徴があるダイヤモンド取引所
ダイヤモンド産業の中心を担う、アントワープについてスポットを当ててみましたが、世界のほかのダイヤモンド取引所は、どんな特徴があるのでしょうか。取引所によって、集まってくるダイヤモンドの種類にも特徴があります。ニューヨークには大粒のダイヤモンドが集まってきますが、規模自体は小さなものです。インドにはメレダイヤが多く集まってきます。それに比べアントワープの取引所は、世界中からいろいろな種類のダイヤモンドが集まってくるので、まるでダイヤモンドのデパートのようです。
ダイヤモンドの相場も取引所で決まります
ダイヤモンドの値段は、鑑定されたグレードごとに決まりますが、主要なダイヤモンド取引所では、日々価格が変動し相場を形成しています。相場と言っても株式や先物商品と違って、単一の取引所で決まるものではありません。ダイヤモンド取引所では前述の通り、メンバーが個々に取引を行っていますが、これは相対取引といって、貴金属や為替市場と同じ種類のものです。一般的な金融商品と異なり、生産調整がされているので暴落や暴騰が少ないことがダイヤモンドの相場の特徴です。ダイヤモンドの相場は、ダイヤモンド取引所で毎日公開しています。