ダイヤモンドと聞くと、美しい光を放つ宝飾品を思い浮かべるのではないでしょうか?宝石として使われるダイヤモンドは、鑑定の付いたクオリティの高いものが要求されます。採掘されるダイヤモンドのすべてが高いクオリティを維持しているかというと、そうではありません。では高いクオリティに届かなかったダイヤモンドは、どうなっているのでしょう?実はダイヤモンドには、宝石として使われるものと工業用に使われるものがあります。
今回はダイヤモンドの用途についてお話ししたいと思います。
宝石用ダイヤモンドと工業用ダイヤモンドの違い
ダイヤモンドははじめに選別されてある程度の大きさに分けられます。透明度が高くて、品質が良くても、カットや研磨ができるサイズがなければダイヤモンドカットなどの加工を施すことができません。ですからまず、ある程度のサイズのあるものは宝石用へと分けられます。宝石用とされるダイヤモンドの殆どが、単結晶ダイヤモンドと呼ばれるダイヤモンドの結晶体で、透明度が高いものが選ばれます。
その後、大雑把な品質によって分けられます。ここでは、サイズの小さいもの、黄色や茶色の色が濃すぎるもの、内包物が多くて黒ずんでいるものなどが省かれます。透明度の低いものは宝石として使うことができないので、工業用品として使われます。
実はダイヤモンドの用途は宝石用より工業用の方が多いので重要であるとさえ言えます。これはダイヤモンド特有で、他の宝石とは全く違う側面です。
宝石用にはならないけど工業用にはもったいないダイヤモンド
小さなダイヤモンドで0.1カラット以下のものは、メレダイヤと呼ばれます。宝石としてのクオリティは足りないけど、工業用にするにはもったいない、そんなダイヤモンドは準宝石といいます。凖宝石は宝石用ダイヤモンドほどのクオリティはありませんが、安価で購入できることからカジュアルなアクセサリーに使われることも多く、市場にたくさん出回っています。気軽に身につけるアクセサリーは準宝石、パーティーフォーマルな場面では高品質のダイヤモンドジュエリーと使い分けるのもいいですね。
工業用ダイヤモンドの使い道
ダイヤモンドは宝石としての価値がないと、極端に価値が落ちてしまいます。ダイヤモンドは硬さなどの優れた特性が多いので宝石としてのダイヤモンドでなければ価格も安く、工業用として利用されます。主な用途は切断・研磨・掘削で、ダイヤモンドの硬い特性を活かしたものがほとんどです。
では、工業用の用途についていくつか例をあげてみます。
ダイヤモンドカッター
回転工具の刃先にダイヤモンドが混ぜられているものです。ダイヤモンドの粒が、切断対象を切ったり、削り取っていったりします。石材・コンクリート・金属など、どんなものでも切断することが出来ます。道路工事などででアスファルトをキュイーンと音を立てて切っている機械を見たことはないでしょうか?あの刃が回転しているカッターがダイヤモンドカッターを利用した代表的な工具です。
研磨機
ダイヤモンドカッターもそうですが、ダイヤモンドの硬度が高く引っかきに強いということを利用し、研削・研磨材として使われています。現在世に出回る研磨剤には、さまざまな素材が使われていますが、ダイヤモンドが作られる研磨剤は、最高級の研磨性と耐久度を誇っています。研磨機と研磨剤は用途は違いますが、ドリルの先にダイヤモンドをつけて穴を開けるのも、ダイヤモンドを使って高速で対象を削り取っているのも、使われ方としては同じ特性を活かしているといえますね。
ガラス切り・レコード針
ガラス切りもレコード針も、極細の先端に取り付けられていますが、高い耐磨耗性を要求される部分です。最高の硬度といわれるダイヤモンドを使用しても、プラスチックの溝をなぞり続けると磨耗してしまいます。これがダイヤモンド以外の素材であれば、かなり頻繁に取り換えなければならないでしょう。ちなみに、サファイアなどダイヤモンドの次に硬度が高いといわれる宝石が使われることもあります。
その他
あらゆる身近な家電製品にダイヤモンドは使われています。冷蔵庫、ラジオやテレビ、パソコンや携帯電話、スマートフォンにまでダイヤモンドは使用されています。宝石としてダイヤモンドを持っていなくても、家庭にダイヤモンドを使った製品は持っている人が殆どといっても過言ではありません。
工業用に作られる人造ダイヤモンド
工業用に使われるダイヤモンドは、天然のもの以外にも人造ダイヤモンドを利用することもあります。単純にコスト面で人造ダイヤを使うというのもありますが、通電の良さや使用するものによって、特性を合わせるなどの便利さも併せ持っています。また、工業用ダイヤモンドとして、天然のダイヤモンドでは均質性その他の需要を満たすことが出来ない状況であるため、人造ダイヤモンドが活用されている側面もあります。
工業用の人造ダイヤモンドをいくつかご紹介します。
単結晶ダイヤモンド
透明な結晶体、装飾用でお馴染みのダイヤモンドですが、工業用としては黄色いものが使われています。他の物質に対して熱的、工学的、機械的、電気的な優位性を持ち、耐食性にも優れているので、単結晶ダイヤモンドは究極の素材として研究されています。
主な用途は鏡面やナノレベルの表面粗さ、形状精度を必要とする製品。微粒化、医療用機器など
多結晶ダイヤモンド
ダイヤモンドの粉末と金属バインダーを約5万気圧の高圧と約1500℃の高温によって、高温高圧合成法で焼き固めたダイヤモンドです。硬度は上記の単結晶ダイヤモンドよりは落ちますが、加工性が良く通電性もあるので、耐摩耗部品等に多く利用されています。
主な用途は耐摩耗治具、量産部品、伸線、ノズル、微粒化など
CVDダイヤモンド
CVDダイヤモンドは、約0.1気圧の低圧のメタンと、水素から成る原料ガスをプラズマ中で反応させて、約1000℃のシリコンの基板上に堆積される、気相合成法によって製造されます。基板上にできた極小の粒がくっつきあって、膜状に成長するのです。実はCVDダイヤモンドのような形態のダイヤモンドは、天然には存在しません。また、現状この方法で宝石にするような大きな結晶の製造は出来ません。CVDダイヤモンドは、通常のダイヤモンドでは作れない大面積での製造が可能なので、工具や金型、センサー等への応用が期待されています。
主な用途はドライ金型、ヒートシンク、耐熱用センサー、ウィンドウなど
ダイヤモンドパウダー
ダイヤモンドパウダーは、主に研削・研磨の際に使われます。メッシュサイズからミクロンサイズ、最近ではナノサイズの需要も多くなっています。
主な用途は添加剤、研磨剤など
まとめ
ダイヤモンドというと、宝飾用というイメージを持つ方が多いと思いますが、実はダイヤモンドの多くは工業用に使われています。宝石用のダイヤモンドはごく一部なのですね。だからこそ高級品であるともいえます。現在、自動車や自転車、金属線やスクリューの殆ど全ての製品は、何かしらダイヤモンドの特性を活かした道具で製造されています。冷蔵庫、トースター、ラジオ、テレビ、携帯電話やスマートフォンにパソコン、電球などあらゆる電気製品にダイヤモンドが使われているのです。
宝石といえばダイヤモンド、といってもいいほど身近なダイヤモンドですが、工業用のダイヤモンドも知らないだけで、実はとても身近な存在なのです。